世紀が改まる頃、田んぼの実りを撮ろうと出かけたところでマネキン顔のkakasiが居並ぶ光景に出会った。それは不思議な眺めだった。鳥よりも人が驚きそうだなと近づくと、自分の中に眠っていた物語の種が弾け出て、平凡なサラリーマンが“違う場所”に彷徨いこんでしまったような、魔法にかかったような感覚にとらわれた。そうしてkakasiたちとのフォトセッションが始まった。華やかで綺麗な顔が田んぼの泥にまみれ、ショーウインドの輝きが雨に風に蜘蛛の巣に曇っていく。なぜここに居るんだろう、この表情は何だろう。
毎年暑さが残る秋の始まりにkakasiたちが現れる頃、ワクワクしながら会いに出かける。同じ場所なのに出し物が変わるようにその年ごとの配置が違い主役が変わる。まるでモデル撮影会を楽しむ気分で、あるいは劇場で演目を撮るように飽きることもなく撮り続けた。
マネキンの顔が田んぼの中に立つことそれ自体が持つ奇妙さ不気味さ可笑しさそして哀しさ。豊かに実った稲田を晴れ舞台にした、キッチュなkakasiたちの揃い踏みです。
作者プロフィール
田村幹夫 1950年東京・目黒生まれ 1976年-2011年(学法)文化学園 文化出版局に勤務。 2007年より松本路子氏主宰のワークショップ「光を束ねる」に参加し 作品制作を続けている。