お台場、豊洲、ディズニーランドといった”湾岸”とは違ったもう一つの”湾岸”がある。ここでは、人も街も荒々しく働き呼吸する。まるで荒れ地に生えるあらぐさのよう。
海と運河、幹線道路に隔てられた、貯木場と物流の拠点。公園という名のハラッパに囲まれたこの地域には一戸建ての家など無く、集合住宅がわずかに点在するばかりである。
朝、夜勤疲れでしょぼい人、勤務へ向かう早足の人。自転車が黒い塊となって追い抜いていく。夜明け前から街を出る人と入る人がすれ違う。積み荷を満載したトラックはあわただしく街に向い、貯木場からは、河川工事用の台船が、曳かれて出て行く。フェンスに囲まれた荒れ地に朝日が当たる頃、人も街も輝きをとりもどし、また新しい一日のドラマが始まるのである。
夜、仕事を終えて帰る頃、あたりは真っ暗な闇空間に包まれていく。人影の途絶えた道を一刻も早く抜けていきたい衝動に駆られ、私は急ぎ足で新木場駅へと向かう。
(カラー50枚)
夏目安男(なつめやすお)略歴
1950年生まれ。東京都江東区在住。
株式会社きかんし勤務。
日本リアリズム写真集団会員