
越後松之山は新潟県と長野県の県境にある山村。冬は4メートルほども積もる日本でも有数の豪雪地だが、雪が降り止むと村の人たちは残雪の上に灰を撒き、ノコギリやスコップで雪を割り、消雪作業を始める。春の遅い豪雪地では自然の雪溶けなんかを待っていられないのだ。自らの手で雪を消し、田んぼの土を出して農作業を始める。
つまり、田んぼに自然より一足早く「春」を呼び込むのだ。
雪国の農民たちは「春を呼ぶ人」なのである。
昭和50年代の農民には覇気があった。
現在の松之山は、一見、暮らしは便利になり、農業も機械化され楽になったように見えるが、実情は農業をやっている人はみんな高齢になり、農業後継者はほとんどいない。人口は40年前の三分の一の2千2百人に減っている。一人暮らしのお年寄りの家も多く、嫌な言葉だが「限界集落」になっている集落もある。
昭和50年代は、豊かになろうと夫婦別離になる出稼ぎまでしてガムシャラに働いてきたが、その苦労をどこかで誰かにすり替えられ、農業の展望を奪われてしまったのではないだろうか。そして、私たちも経済主義にまどわされ、大事なものを捨ててきたのではないだろうか
この写真展は村の人たちが覇気を持って頑張ってきた時代の証言写真である。
出展枚数 モノクロ写真 60枚
橋本紘二 略歴
1945年 山形市生まれ。 日本写真家協会会員。 1979年日本写真協会新人賞受賞。 農村や農民を撮り続け、主にグラフ誌や農業雑誌に発表している。